新品の高級賃貸
ここで、期待される投資収益(リターンと呼ばれます)は同じであるものの、リスク(不確実性)の異なるオフィスビルへ投資する場合を比較してみることにしましょう。
賃貸オフィスビルAに100億円の投資をすると、初年度に年間6億円の利益(NODが得られるものとします。
この場合の投資利回りは6億円÷100億円-6%ということになります。
このビルはテナントが頻繁に入れ替わるために毎年利益が変動し、今後5年間では6%、 7%、 5%、 8%、 4%となることが見込まれるものとします。
ただし、毎年の利回りはあくまでも予想ですから、実際には予想を上回ることも下回ることもあります。
5年間を平均すると、このビルへの投資利回りは6%((6%+7%+5%+8%+4%)÷5年)となります。
一方、賃貸オフィスビルBではテナントと10年間の定期借家契約(期間を定めた賃貸借契約、ペナルティなしに途中解約はできない)を締結しているため、今後5年間で賃料水準が変わったり、テナントが退去したりして予定利益が狂うことはありません。
従って、今後5年間のリターンは確定的に初年度と同じ毎年6%で、 5年間平均でも6%ということになります。
オフィスビルA、 Bの投資利回りの比較オフィスビルA 6% 7% 5% 8% 4% 6% オフィスビルB 6% 6% 6% 6% 6% 6% このような場合、ビルAに投資してもビルBに投資しても、表面的には今後5年間の平均投資利回りは6%で差がありません。
しかし、ビルBへの投資から得られるリターンは安定的であるのに対して、ビルAのリターンは相当程度、上下に変動することが予想されます。
おそらく多くの投資家は、 「ビルAに投資するとリターンが3%とか4%、下手をすればマイナスになることだってあるかもしれない。
ここは確実に6%の投資利回りを確保できるビルBを選ぼう」と考えるでしょう。
つまり、多くの人はリスクを極力回避したい(リスク回避者と呼びます)と考え、同じリターンが期待されるのであれば、リスクの低い方の投資を選びます。
もちろん、中には一発勝負が好きな人(リスク愛好者と呼びます)がいて、 「ビルBに投資しても6%の利回りしか得られないが、ビルAに投資してうまくいけば7%とか8%の利回りが得られるかもしれない」と考え、ビルAに投資する場合もあるでしょう。
しかし、そのような人はまれだといってよいでしょう。
それでは多くの人は、リスクの高い資産には投資しないのでしょうか。
前の項でも述べましたが、不動産に投資するのと国債に投資するのとでは、不動産への投資の方がリスクの高いのは明らかです。
国債は国が元本と一定の利子の支払いを保証して発行している債券(国にとっての借入金)ですから、日本国がその返済をしないということは、まずはあり得ないことです。
これに対して不動産に投資する場合は、思いもかけずにテナントが抜けたり、災害にあってビルが損傷したりして、予定通りの利益が得られないリスクがあります。
それにもかかわらず、多くの人が不動産に投資するのは、不動産に投資する方が国債に投資するよりも、高いリターンを期待できるからです。
現状(2004年春)でいえば、国債に投資してもリターン(投資利回り)は1%前後ですが、都心部のオフィスビルに投資すれば5-6%程度のリターン(投資利回り)を得ることが期待できます。
投資家は、投資家が許容するリスクに見合うだけのリターンが得られるのであれば、多少リスクが高い資産に対しても投資するということです。
逆にいえば、投資リスクのある不動産が魅力ある投資対象となるためには、リスクのほとんどない国債よりも、高いリターンが期待できなくてはならないということになります。
このように不動産投資のリターンが、国債をはじめとする不動産よりも投資リスクの少ない資産の投資リターンを上回る部分のことを、リスクプレミアム(Risk Premium)と呼んでいます。
プレミアム(Premium)は英語で「割り増し」という意味なので、投資家が一定のリスクを取ることに見合う報酬ともいえるでしょう。
ただし、どこまでリスクをとってリターンを狙うのかという感覚は、個人によって違いがあります。
同じ不動産に投資するにしても、リスクを強く意識する投資家のなかには、期待リターンが8%なくては投資しないという人がいるかもしれません。
その人にとって、リスクをとることに見合う報酬であるリスクプレミアムは7% (8%-1%に跳ね上がるわけです。
このような投資リスクは、当然ながら不動産投資のみならず、株式や債券に対する投資でも存在します。
「株式・債券投資のリターン-国債投資のリターン+リスクプレミアム」という式が成り立つことは、不動産投資の場合と同じです。
ただし、リスクプレミアムの大きさが異なり、一般には、 「債券投資<不動産投資<株式投資」の順でリスクプレミアムが高まるとされています。
投資対象となる資産の特性によって、リスクプレミアムも変化するということです。
不動産投資市場の整備が進んでいる米国では、不動産はミドルリスク・ミドルリターン(中程度のリスクと中程度の収益)の投資商品と位置づけられています。
ただし、株式や債券のような金融商品に対する投資と違い、不動産に投資する場合は不動産事業固有のリスクを考えなくてはならず、それがリスクプレミアムにも反映されます。
次ページの図表4-2は、不動産事業固有のリスクです。
非常に多様なリスクであり、この点が一般投資家による不動産投資の判断を難しくしているといえます。
不動産投資のリスクの大きさの尺度さて、これまで述べてきた不動産投資のリスクの大小を、どのようにすれ鳴巴握できるでしょうか。
ある不動産に投資しようとするときに、まず考えるのは「どの程度の収益が見込めるのか」ということですが、こうした投資のリターンは、すぐに計算できます。
前に説明したNOI (純営業収益)、キャップレート(総合還元利回り)、 NPV (正味現在価値)、 IRR (内部収益率)など、どれを利用してもよいでしょう。
算出された投資利回りや投資利益の高いものが、リターンの高い投資であることは論を待たないところです。
ではリスクに関しては、何を尺度にして判断したらよいのでしょうか。
実務的に一番簡単にリスクを判定する方法は、投資しようとしている不動産の過去の収入や利益の実績(実務ではトラック・レコードと呼びます)と、これから数年問の見通しを一覧表にしてみることです。
例えば、下の表はオフィスビルCとDの過去3年間と今後2年間の予想リターンを示したものですが、この表とグラフを見れば、どちらの投資リスクが大きいか一目瞭然です。
オフィスビル投資のリターン(投資利回り)とリスク(標準偏差) オフィスビルC 6% 7% 5% 7% 5% 6% 0.9% オフィスビルD 3% 8% 9% 2% 8% 6% 2.9% オフィスビル投資のリターン(利回り)オフィスビルCのリターン(投資利回り)は、 5年間の実績と予想で5%〜7%の間を動いているのにすぎないのに対して、オフィスビルDのリターンは2%から9%まで大きく動いています。
「不確実性」という意味での投資リスクは、明らかにオフィスビルDの方が高いといえるでしょう。
直感的には、このような方法で投資リスクの大小を判定できます。
しかし、リスクの大小を計算して数値で示すこともできます。
このケースでいえば、 5年間のリターンの平均値から、毎年のリターンがどの程度バラついているかを計算して、そのバラツキ度合いをもって、リスクの大きさとするのです。
この手法は平均・分散アプローチと呼ばれ、リスクの指標として標準偏差が使われています。
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